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技探訪
じっくり3年 天然醸造のみそ一筋
石井味噌店 石井基さん(64)

技探訪 ものづくりの現場から
木の桶(おけ)の森−。高さ二メートル、四トン半入りの杉の桶が並ぶ。
長い年月のうちにじんわり成分が染み込んだ木肌が、しっとりと中身を包んでいる。
「木の桶は呼吸している。みそに塩分があるから桶自身が強くなる。大切に使えば百年や二百年は持つ」と、いたわるようになでる。みその香ばしいにおいの中で、日本の伝統の味を守る。
天地返しを3、4回 三年間をかける天然熟成のみそを造る。機械化、速醸法(二十〜三十日で醸造)の波に逆らい、昔ながらの製造方法にこだわる。
速醸法を研究したこともあるが「どうしても、うまいみそができない」と、天然醸造だけに専念した。
速醸法のみそは、人工的に添加物を加える。天然醸造は、三年間に「天地返し(中身に酸素を通すために別の桶に移す)」を三、四回するだけ。
酸化するため色は自然に濃くなる。
県内産大豆にこだわる。
みそは、大豆をコメ、塩の三者を混ぜて造る。大豆は県内産にこだわる。
年間の大豆使用料は約五十トン。「手に入れるのが難しくなった。作る人が減り、上水内郡の中条村や鬼無里村などの農家から二、三俵ずつ買う」輸入大豆は三十キロで約千五百円、県内産は三十キロで約一万二千円。
材料費は十倍だが、製造価格は二、三倍。経済的には決して楽ではないという。
「『ばかなことをやっている』と笑われたこともある」。だが、それをやめなかったのは「ここだけの味に、全国からファンがついてくれたから」だ。
最も難しい麹作り
大豆を洗い煮る。コメを洗いふかす。五年前から、原材料処理は独自の機械を使う。
しかし、最終的な微調整は自分の目で確かめてする。三年間寝かせた後のみその味は、最初の配合で決まる。
コメをもとに作る麹(こうじ)作りは最も難しいという。「コメ粒のしんまで麹菌が繁殖して”はぜ込み”をよくしなくてはならない。大豆をみそにするのは麹の力。
なまはんかな麹では三年間もたない」という。
麹室(むろ)は室温三十度に保たれ、さらに一つ一つの床(とこ)を毛布でくるむ。
「生きものだから」。大切な宝物を扱うように、注意深く扱う。
「おいしい」が造る喜び
「おいしかったといわれると、そりゃあうれしい。味覚は個人の差の大きなもので、
十人のうち六人がおいしいといえば大成功といえる。小さい企業だけれどメーカーはメーカー。造る喜びというのはそこにある」みその本当の味を、同店の店頭で初めて体験する人も多い。
「四十年、これだけやってきて満足している。穏やかな笑顔がこぼれた。
連絡先 松本市埋橋1−8−1 電話番号 32−0534
高さ2メートル、直径2メートルの木の桶が並ぶ。3年間天然熟成する
宝物を扱うように麹を作る。大豆をみそにするのは麹の力だけ